講演会より
(阪神大震災の教訓 1)
本年(1995年)1月17日の兵庫県南部地震(マグニチュード7.2)か
ら10ヶ月以上経ちました。
被災者の方々には、改めて、地震お見舞い申し上げます。
地震国、日本では、頻繁に地震が起き、度々被害が生じています。
日本最古の地震被害に関する記録は、日本書紀に「地震神を祭らし
む」と記載されており、これは西暦599年に大和の地で発生した地
震だと考えられています。
以後、古文書等で確認されている、被害を起こした我が国の地震の
数は、約650です。
濃尾地震(1891年)以後、約100年の間に、350程度の被害をもたら
した地震が、生じています。
10月21〜22日に、「都市防災と防災システム -阪神・淡路大震災
から得た教訓-」と題して、第10回「大学と科学」公開シンポジウ
ムが、東京の有楽町朝日ホールで開催されました。
ここで、講演された内容の概要を、何回かに分けて報告し、皆さん
と一緒に、「地震防災」について、考えたいと思います。
既に、マスコミ報道や専門誌などで、ご存じの事が多いと思います
が、興味のある方は、次回からの「阪神大震災の教訓」にアクセ
スして下さい。
予定している項目は、以下の通りで、講演者と併せて示します。
□ 地震と地盤震動の特徴 ・・・・・・・ 菊地正幸、土岐憲三
□ 地盤災害と液状化対策の有効性 ・・・・・・・・・石原研而                    
         
  ライフラインの被害と復旧 ・・・・・ 山崎文雄、高田至郎
  情報と社会 ・・・・・・・・・ 林春男、亀田弘行、廣井脩
□ 建築物の被害状況 ・・・ 小谷俊介、柴田明徳、中島正愛他
□ 土木構造物の被害状況 ・・・・・・・ 家村浩和、川島一彦
□ パネルディスカッション  藤原悌三、濱田政則、渡辺史夫他

 

(阪神大震災の教訓 2)
今回は、「地震と地盤震動の特徴」に関する講演内容を紹介します。
講演題目と講演者は、以下に示します。
■ 「断層パラメター」 菊地正幸 横浜市立大学教授
■ 「強震地動の特徴」 土岐憲三 京都大学教授
今回の地震では、地震と気が付いて、2〜3秒後には、天井が落下
し、家具が転倒するなど、逃げる余裕すらなかったと聞きます。
これは、典型的な浅い内陸型地震(直下型地震)だったためです。
約10秒間で、全てのエネルギーが放出されていました。
地球の地殻は動いています。
ハワイは、日々、日本に近づいていますし、日本列島も東西方向に
縮んでいます。
地震には、地殻移動に伴って、海溝沿いで生じる「プレート境界地
震」と、断層によって生じる、今回のような「内陸型地震」と2種
類あります。
同じ震源で、大被害を及ぼす地震は、プレート境界地震の場合、マ
グニチュード8程度で、約100年周期、内陸型地震の場合、マグニ
チュード7程度で、約1000年周期で生じると考えられています。
マグニチュードが、1違えば、地震の大きさは、約30倍違いますが、
プレート境界地震の場合、震源が遠いので、日本列島では、同じ程
度の大きさになります。
日本はプレート境界に近いですし、全国、断層だらけです。
関東地域においても、南関東を震源とする大地震が、20〜30年以内
に、何時起きても不思議はないとのことです。
地震記録計が設置されて、約半世紀。
大地震の記録が、初めて得られたは、1933年の米国ロングビーチ地
震でした。1940年には、インペリアルバレー地震で、日本でも有名
なエルセントロ波が記録されています。
余談になりますが、強震動の観測の必要性を、米国で説かれたのは
日本人の末広博士でした。
日本での強震観測が開始されたのは、1953年からのことです。
今回の地震でも、強震記録が数多く得られました。
震度7の地域内の記録はありませんが、震源から10km以内での強震
記録が、初めて得られました。
断層方向の延長上の京都の方が、断層方向と直交している大阪より
も、遠方にも係わらず、揺れが大きいことが分かりました。
揺れる方向は、断層方向に直交している成分が、卓越していました。
地中80mから地表面に向かって、横揺れが大きくなる様子も観測さ
れました。
人工島では、液状化に伴って、地震が弱まる様子も観測されていま
す。
地震特性は、本震と余震では、変わりありませんでした。
別の報告によれば、1968年の十勝沖地震と、1994年の三陸はるか沖
地震で、八戸港湾での地震特性は、同じ性質のものであることが分
かっています。
これは、地震の強さに係わらず、震源域がほぼ同じで、場所が同じ
であれば、ほぼ同じ地震特性を持った地震が再現されることを、意
味しています。
現状の技術力では、地震の伝播特性や地盤特性などのモデル化が困
難で、コンピューターを用いた解析だけで、全てを説明することは
できません。
今回の観測記録を基に、解析技術が、格段と進歩すると思います。
でも、観測網を充実させることの方が、先決なようです。
米国の西海岸の地震多発地帯では、6階以上の建物には、強震計の
設置が義務付けられたと聞いています。
横浜市では、2kmグリッドで、地震計を設置する方向で、検討され
ています。
最後に、地震被害の分布に関する、個人的見解を一つ。
震度7の地域は、震源である断層とは一致してはいません。
この理由について、今回のシンポジウムでは、触れられませんでし
たが、地盤と関連付けて、説明されている学者がいます。
震度7の分布は、硬い地盤と軟らかい地盤の境界付近に位置してい
ます。
このような例は、過去の地震でもあり、1985年のメキシコ地震の被
害分布と良く似ている事を思い出しました。
何れにしても、原因究明が待たれます。

 

(阪神大震災の教訓 3)
今回、報告する講演内容は、以下の通りです。
□ 地盤災害と液状化対策の有効性  石原研而 東京理科大教授
□ ライフラインの被害と復旧    山崎文雄 東京大学助教授
                  高田至郎 神戸大学教授
■ 今回の地震で神戸港沿岸地域の埋め立て人工島で、地盤の液状
化による被害がでました。
液状化は、水を多く含んだ、緩い、粒子の細かい、比較的浅い、砂
の地盤で生じると、考えられていました。
六甲アイランドやポートアイランドは、花崗岩の風化したマサ土で
埋め立てられています。
マサ土は、礫や砂やシルトなど、多種の土粒子から成っており、自
然投下でも、ある程度密ずめになる良質な材料で、液状化は起きに
くいと考えられていましたが、今回の地震では、液状化が生じまし
た。
地盤改良が行われなかった場所では、地震後、40〜50cmの地盤沈下
が、生じました。
地盤改良で、効果的だったのは、砂を杭状に圧入するサンドコンパ
クションパイルと、地盤に振動を与えて締め固めるロッドコンパク
ション工法で、地震後の沈下は0でした。
その他、旧海底粘土の締め固めを対象とした、サンドドレーンやプ
レロード工法も、ある程度効果的で、20〜30cmの沈下で済みました。
■ 今回の地震は、大都市を襲った大地震で、電気、都市ガス、上
下水道、通信施設のライフラインも大きな被害を受け、都市活動も
ストップしました。
地震直後、約260万戸が停電しましたが、復旧は、架空線などによ
る応急復旧で、6日後には完全復旧しました。
ただ、避難された方々の留守中に、漏電や発熱器具のつけっぱなし
などが原因と思われる、火事が発生しました。
もし、被災して、避難する場合、ブレーカーを落とす事も、忘れて
はいけません。
電話などの通信施設の被害も大きく、家屋の倒壊で復旧不可能な場
所を除いての完全復旧は、2週間を要しました。
上下水道やガスも同様に、大被害を受けました。
地中埋設物であるため、系統切り替えが容易でなく、完全復旧まで
に、上下水道で70日、ガスは85日を要しました。
水道管の場合、塩ビ管の被害が大きく、ポリエチレン管の被害は少
なかったようです。
ガス管についても、溶接管やポリエチレン管などの最新の管の被害
は、殆ど見られなかったとのことです。
水道やガスについては、耐震性の高い管に、更新される必要がある
ようです。
また、今回の地震後、簡易トイレの設置が遅れ、屎尿の処分が課題
として浮かび上がりました。
ただ、下水管が壊れた状態で、水洗トイレを使用すると、汚水が溢
れ、疫病など2次災害の可能性もあったと、指摘されました。
上水道の復旧の遅れが、2次災害を防いだという、見方もできます。
もし、被災を受けた場合、飲料水の確保は当然ですが、水洗トイレ
の使用は我慢しなければならないようです。
■ 「情報と社会」に関する講演内容は、次回の報告に回させて頂
きます。御了承下さい。

 

(阪神大震災の教訓 4)
今回の報告は、「情報と社会」と題して講演された内容で、講演項
目と講演者は、以下の通りです。
□ 被災者のこころの傷のケア    林 春男 京都大学助教授
□ 防災情報システムのあり方    亀田弘行 京都大学教授
□ 震災時の人間行動        廣井 脩 東京大学教授
■ 災害は、突然に、大規模な環境変化をもたらします。
被災者は、予想外の新しい現実の中で、人生の再構築を強いられま
す。過度のストレスを受けるのは当然で、「再体験」、「回避」、
「心身変調」のような症状が現れます。
我が国の災害救助法の中には、「心のケア」は含まれていません。
我が国で、災害後の心のケアの重要性が、広く認識されるようにな
ったのは、奥尻島が津波による大被害を受けた、1993年の北海道南
西地震以来のことです。
ストレスに上手に対処できるように、災害後の生活上の留意点やス
トレス対処法を具体的に説明できる人(ローカル ゲートキーパー
)を、地域の中で育成し、被災者のストレスを和らげて、復興への
活力を、生み出してあげる必要があるとのことです。
■ 今回の大震災において、当初、被害状況の把握ができず、政府
の危機管理能力も、問題となりました。
地震動モニタリング、発災時の被害推定、災害対応における情報処
理・管理などの防災情報システムは、既存のものありますが、各団
体毎で、ばらばらな状態です。
これらの情報システムのデータが、共有できるように、ネットワー
ク化が必要です。
被災地における情報ボランティア活動として、住宅地図データ図形
システム(GIS)が、被災家屋の解体申請受付・データ処理支援に
使用され、受付事務が効率化したケース(神戸市長田区)も紹介さ
れました。
■ 今回の大震災で、死者5,500人、負傷者41,000人という、日本
の地震被害では、関東大震災以来、最大の被害が生じました。
3年前、地震学者から、西日本は地震活動期に入ったという見解が、
発表されたとのことですが、注目されることはなく、「関西地震安
全神話」説が、一般的な認識でした。
家具の固定率でみると、神戸・西宮では、震災前、2〜3%で、関
東地方の20%を大きく下回っていました。
震災後、神戸・西宮地域の家具固定率は、38%まで増加しました。
前々報で、お伝えしたように、地震発生から、ほんの2〜3秒後に
は、家具が転倒し、建物が壊れています。
多くの被災者は、就寝中でした。
近くのテーブルの下に、転がり込めた人は、幸運な方でした。
地震に対する備えを、怠っては、いけないという事だと思います。
■ 次回は、「建築物の被害状況と耐震診断の必要性」について、
報告致します。

 

(阪神・淡路大震災の教訓 5)
今回の一連の報告にアクセス頂いて、有り難うございます。
長い報告になりますが、今後とも、宜しくお願いいたします。
さて、今回は、「建築物の被害と耐震診断の必要性」と題して、以
下に示す講演内容について、報告します。
□ 鉄筋コンクリート建築  小谷俊介 東京大学教授
□ 中層建築の耐震性    柴田明徳 東北大学教授
□ 鋼構造の耐震性     中島正愛 京都大学助教授
□ 鉄筋コンクリートビルと木造住宅の耐震診断
              坂本 功 東京大学教授
□ 旧い建築と新しい建築  岡田恒男 東京大学教授
■ 今回の大震災の建築物の被害の特徴として、旧い建築物に、大
きな被害が集中したことが挙げられます。
この原因については、日本の耐震規定の歴史を、振り返る必要があ
ります。
明治以後、欧米から直輸入した、煉瓦造や石造建物が、濃尾地震(
1891年)で壊れ、鉄筋コンクリート造(以下、「RC」と略)建物
も、関東大地震(1923年)で、多く崩壊しました。
地震の無い地域の技術を、そのまま日本に適用した結果でした。
これらを契機に、「市街地建築物法」が1920年に制定され、この中
に、耐震規定が盛り込まれました。
当時の耐震工学者は、大地震の際、建物の重さの0.3倍の水平力が、
一様な分布で、建物に作用すると推定しました。
そして、材料の許容応力度を、材料の破壊する強度の1/3と定め、
設計用水平震度を0.1と定めました。
戦後、「建築基準法」が1950年に制定されました。
この中の耐震規定では、設計用水平震度は0.2と定められましたが、
材料の許容応力度も以前の2倍と定められましたので、耐震規定の
変化は、事実上ありませでした。
耐震規定の改正の必要性が、叫ばれるきっかけとなったのは、1968
年の十勝沖地震で、数多くのRC建物が、柱の斜め方向の亀裂の拡
大に伴う破壊(せん断破壊)を受け、当時の「RC建物安全神話」
が、崩壊したからです。
1971年に、建築基準法の耐震規定の一部が改正され、RC柱の上下
端の柱径の2倍の範囲に、径6mm以上の帯筋(太い縦筋(主筋)の
廻りに巻いてある横筋のこと)を10cm以下の間隔で配筋するよう、
定められました。
これは、柱のせん断破壊を防止する目的の、応急措置でした。
同時に、建築・土木構造の耐震規定の改定に関する研究開発の取り
組みが、本格化しました。
そして、1981年に「新耐震設計法」と呼ばれる耐震規定の大幅な改
定を盛り込んだ建築基準法が施行されました。
この改定の特徴は、建物に作用する水平力の分布を、地震応答解析
結果を参考にして、建物頂部に、より大きな力が加わる、逆三角形
に近い外力分布(Ai分布)にしたことと、地震に対して、建物の
「強さ」だけで抵抗させるだけでなく、「粘り」で地震エネルギー
を吸収しようという思想が盛り込まれたことでした。
「耐震工学は経験工学」で、大きな地震を経験すると共に、耐震技
術は進歩し、構造設計法も発展してきました。
先に述べた「旧い建築」とは、1981年以前の設計法で建てられた建
物のことで、「新しい建築」とは、1981年以降の新耐震設計法で建
てられた建物のことです。
今回の地震で、旧い建物に被害が集中したことで、地震被害を最小
限にくい止めるためには、旧い建物の耐震補強が不可欠だとの認識
が、急速に広まりました。
しかし、日本国憲法は、個人が私有財産を自由に処分する権利を保
障しています。
建築基準法は、公布後に建設される建物には適用されますが、それ
以前に建てられた建物には適用されません。
1981年以前の建築基準法で建てられた建物は、「既存不適格建物」
と呼ばれています。
このような建物が、全国で300〜400万棟あり、木造建物も含めると、
3000〜4000万戸に達するとのことです。
「耐震診断法」や「耐震補強法」は用意されています。
木造建物についても、建築技術者でなくても、耐震診断できるよう
なパンフレットが、日本建築防災協会版として、作成されています。
経済的負担はかかりますが、地震時の安全性を高めるために、先ず、
耐震診断をお薦めし、建物の耐震性能を、お施主様や建物使用者の
方々に、認識して頂くことが必要ではないでしょうか。
同時に、私達、建築技術者も、責任を自覚する必要があります。
お施主様や、使用者の方々に、どの程度の地震で、どの程度の被害
が生じるか、殆ど、説明してこなかったからです。
一般の方々と、建築技術者の間に、震害に対する認識の差があった
ことは事実です。
■ 建築物の被害形態についての報告です。
RC造の場合、建物の強さや剛さの急変する階に、被害が集中して
いました。
例えば、集合住宅の1階が駐車場や店舗の用途に使われている場合、
壁が、上層階に比べて、極端に少なくなっています。
このような場合、1階に、地震の力は、集中します。
地震は、建物の弱点をつくのが得意なようです。
このような特性を、逆利用した建物が、震災後、注目されている
「免震建物」です。
また、商業ビルの中間階が、壊れたケースも目立ちました。
これの原因について、新耐震設計法と旧設計法の外力分布の違いに
よる、建物の強さの分布の違いで生じたとする指摘が、専門家の間
ではありますが、今回のシンポジウムでは触れられませんでした。
「詳細な検討の積み重ね」が必要なのだと、私は思いました。
また、施工不良が原因のものも、残念ながらありました。
典型的な例として、帯筋の90゜フック(本来は135゜フックでなけ
ればいけない)を、挙げられました。
鉄骨造建物の場合、倒壊した建物の8割以上は、5階建て以下でし
た。7階以上は皆無でした。
損傷した所は、柱・梁接合部、柱、ブレース、露出型柱脚に集中し
ていました。
この中には、溶接不良によるものも多かったようです。
鉄骨造建物の被害の中で、倒壊こそしませんでしたが、極厚肉の断
面の、ぜい性破壊(粘りを発揮することなく壊れること)は、今後
の課題として残りました。
同様な破壊は、阪神・淡路大震災の丁度1年前の1994年1月17日の、
米国ノースリッジ地震の被害でも発生し、大きな問題となりました。
これの原因の解明が急がれます。
何故なら、超高層建物の耐震性の信頼性に係わるからです。
長くなりました。申し訳ありません。
次回は、「土木構造物の被害と耐震補強」について、報告します。

 

(阪神・淡路大震災の教訓 6)
「安全神話」は、もろいものです。
阪神・淡路大震災の、丁度1年前の、米国ノースリッジ地震で、高
速道路の橋桁が、落下しました。
この時、日本のある専門家は、「日本では、あり得ない被害だ。日
本の土木構造物は、米国の3倍以上の強さを持っているから。」と、
仰ってました。
今回の報告は、「土木構造物の被害状況と耐震補強」に関するもの
で、いつものように、講演題目と講演者を、以下に、紹介します。
□ 交通施設の破壊特性      家村浩和 京都大学教授
□ 道路橋の耐震判定と耐震補強  川島一彦 東京工業大学教授
■ 土木構造物が、これほどの大被害を受けたのは、日本では、初
めてではないでしょうか。
土木構造物の設計法は、各団体毎に、定められていますが、概ね、
古い構造物(1980年以前の設計基準で建設された物)は、構造物の
重さの0.3倍(当時の建築物の1.5倍)、新しい構造物は、構造物の
重さと同じ水平力に、耐えるように設計されてきました。
土木構造物は、「強さ」だけで、大地震と対抗する設計思想で、建
設されてきたと言えます。
今回の大震災による被害は、建築物と同様、古い設計基準で建設さ
れた構造物に、集中していると、報告されました。
しかし、会場内からの質問で、「震度7の地域内に、新設計基準で
建設された構造物は無かったのに、このようなことは言えないので
は?」という、厳しい指摘がありました。
対コスト効果を考えると、土木構造物も、「粘り」を考慮した設計
体系の確立が、必要とのことでした。
■ 被害特性は、鋼構造物の場合、
@ 桁(人や車が通る部分)や、橋梁支承(桁と橋脚の連結部分)
及び、連結材(桁と桁を結ぶ部分)の損傷。
A 橋脚(橋桁を支える構造物)の座屈(グニャとなる変形形状で、
強さを発揮できなくなる現象)と隅角部の亀裂。
B 鋼構造物のぜい性破壊(粘りを発揮することなく壊れること)。
RC構造物の場合、
@ 橋脚の曲げせん断破壊(縦方向の鉄筋が伸びた状態になるか、
座屈し、同時に、斜め方向の亀裂の拡大による破壊も起こる破壊形
態)
A 橋脚の軸方向鉄筋の段落とし位置(縦方向の鉄筋が急に減少し
ている位置)における曲げせん断破壊
B 橋脚や、フレーム型高架橋のせん断破壊
C 地下鉄駅の中間柱の崩壊
D 地盤の側方流動(地盤が横滑りすること)による橋桁の落下
など、多岐に渡っています。
■  土木構造物は、公共性の高い、社会資本でもあります。
今回の地震被害を踏まえ、既存土木構造物の耐震性のチェックが開
始されています。
RC造橋脚の廻りに、鉄板や新素材を巻いて、粘り強い構造にした
り、橋桁支承部分の免震化も検討されているようです。
■ 最後に、個人的見解を、一つ。
今回の建築構造物の被害の中に、建物と建物の間を結んでいる、
「渡り廊下」の落下がありました。
これは、建築設計者の、大地震時の建物の変形に対する、認識不足
に起因していると思います。
RC建物でも、大地震時には、建物高さの1/200〜1/100程度、即ち、
高さ20mの建物なら、建物頂部で、10〜20cm程度変形します。
隣り合う建物が、同じ方向に揺れるわけではありませんから、最大
で20〜40cm程度の変形差が生じる可能性がある、と考えられます。
従って、渡り廊下と建物の重なりは、安全側の評価をすると、40cm
以上、必要となります。
土木構造物も、橋脚に「粘り」を考慮した設計や耐震補強を行うと
すれば、この程度の変形に追随できる支承部のディテールが要求さ
れます。
既存の橋脚を補強しても、大変形に追随できる、支承部のディテー
ルを考案しないと、落橋の危険性は、変わらないと思います。

 

(阪神・淡路大震災の教訓 7)
今回が、一連の報告の最終回です。
シンポジウムの最後に行われた、「パネルディスカッション −何
が被害を大きくしたか−」の内容について、報告します。
□ パネリスト       司会:村上処直 横浜国立大学教授
  藤原悌三  京都大学教授
  濱田政則  早稲田大学教授
  渡辺史夫  京都大学教授
  東原紘道  東京大学教授
  片山恒夫  東京大学教授
■ 今回の地震で、非常に大きな、水平動及び上下動が、観測され
ましたが、地震動の大きさを、最大加速度で、評価しますと、1993
年の釧路沖地震と、ほぼ同程度(釧路気象台で919gal、神戸海洋気
象台で818gal)でした。
(注:[力]=[質量]×[加速度]、地球の重力が980gal)
しかし、被害の程度には、天と地の差がありました。
木造住宅について、阪神地域と北海道を比較しますと、北海道の場
合、土の凍結による建物の浮上りを防止するため、基礎が地中深く
まで掘り下げられています。また、寒冷地であるため、窓が小さく、
壁が多い構造となっています。屋根も、瓦屋根は少なく、軽い構造
物になっています。
                                                            
阪神地域と北海道の建物の構造の違いを考慮して、被害分析をする
必要があると思われます。
■ 今回の地震被害例は、過去の被害例とほぼ同じで、特別、目新
しいものではありません。
振動締め固めによる地盤改良、堅固な基礎(例えば、地中連壁)、
耐震岸壁などを、積極的に採用すべきです。
■ 現在の建築構造設計者の多くは、マニュアル(仕様規定)通り
の設計しかしていません。
現状の技術力でも、ある地震動に対する、建物の損傷程度を、建物
の持ち主や使用者の方々に、説明できます。
このようなコミュニケーションをし、建物の重要度を考慮して、建
物のコストを決める設計法(性能保証設計法)の確立が、望まれま
す。
■ 理学部系の地震学者の研究は、地震発生のメカニズムを知るこ
とや、地震波を用いて、地球内部の構成・成り立ちを知ることに、
多く注がれています。
破壊力の大きい地震がどのように伝わり、建物と地盤がどのように
影響し合うのかなどの地震工学的な研究は、まだまだ未熟です。
今回の地震において、大きな破壊力を持った地震の巣は、淡路島−
神戸間の海底であったことが、解析的に、確認することができまし
た。
■ 土木系の研究者と建築系の研究者が、共同で、「耐震」につい
て、研究されたことは、余り、ありませんでした。
これからは、協力し合って、耐震工学を発展させることが、重要と
思われます。
■ 地震防災対策は、「経済力」と密接な関係があります。
技術者だけの集まりで、議論を進めても、限界があります。
経済に通じた人達にも、加わって頂いて、幅広い議論をしながら、
地震防災対策を決めていく必要があります。
■ 以上で、第10回「大学と科学」公開シンポジウム [都市防災
と防災システム −阪神・淡路大震災から得た教訓−]の報告は終
わります。